藤井君

仕事中に中学時代、一緒に演劇部だった同級生から電話がある。「ちょっと重い話なんやけど、いま大丈夫か」と聞かれ、いやな雰囲気を感じたものの、バラシ中だったので後でかけ直すことに。
バラシ終了後、ホールアウトして原付を押して歩きながら電話。
中学時代演劇部で唯一の先輩だった岡田構一くん(旧姓、藤井)が亡くなったと聞く。
理由はまだわからない。ここ数年、いやもしかすると10年近く疎遠ではあった。中学を出てからすぐに就職し、いまは結婚してずっと東京にいることは知っていた。

電話を切ってしばらく考えてみるうちに、ふと、いま僕がやっているほとんどの事は藤井君に教えてもらったことなんだなあと思い至った。「中学になったら演劇部入れよ」と誘ってくれた藤井君。部活動の合間に「新しいゲームがあるんだ」と言ってTRPGを教えてくれた藤井君。TRPGと演劇は僕にとって、それ以来ずっと生活の中心的存在であり続けた。
人生の師、なんていう言葉は似合わない、いい加減で風来坊のような気ままな人であったけど、後輩の僕たちとも同い年のように仲良く、そして面倒見がいい人だった。
僕に漫画の描き方を教えてくれた。僕の家に夜中までい続けて二人で親に怒られた。卒業するときにもう着ないから、と僕にブレザーの上着をくれた。「親が再婚して名前が変わんだ」と無理に笑い話のようにして言っていた。僕が高校を卒業する時までお年玉を実家に送り続けてくれた。「いまは石神光って名前使ってるんだ」と言って塗装屋から逃げて転がり込んだパチンコ屋の寮で暮らしていた。「俺の後輩」と僕たちのことをうれしそうに人に紹介してくれた。
本当にいろいろな事があった。そう思う。最近疎遠であったから、逆に昔のことしか思い出せないのだろうけど。

さようなら藤井君。そしてありがとう。