天井桟敷

昨年11月に、四国は松山にて『人力飛行機ソロモン 松山篇』が上演されたらしい。
大きく宣伝されず、情報を入手できなかったことが本当に口惜しい。
ぜひ見たい作品だった。
人力飛行機ソロモン』は寺山修司の伝説の市街劇のひとつで、街中の様々な場所で上演され、観客は移動してそれを見ていくというもの。合言葉は「黒く塗れ paint it black」
寺山修司の市街劇は「人力飛行機ソロモン」のほかに「30時間市街劇『ノック』」というのがあり、これはもうほんとにすごい作品である。
(1975年4月19日午後3時から4月20日午後9時にかけての上演なので、生まれてもいない僕はもちろん見れるわけはないが、とにかく概要だけでも圧倒される)
チケットではなく、地図を買い、観客は街に出る。そして指示のあった場所へ行き、その場所で行われる行為を見る。そしてそのパフォーマンスを演じるのは、天井桟敷の俳優だけではない。その場所、阿佐ヶ谷に住む実際の住人や全国から一枚の地図を持って訪れた観客そのものでもあった。

「私たちが、市街劇を企図するとき、主役である地域住民の平凡な日常現実の中に、異物を持ちこみ、疑問符をさしはさみ、『あなたの平穏無事とは一体何なのか?』と問いかけることなのであるから、市民がまき込まれることは、当然の成り行きなのであった。」

寺山修司「市街劇『ノック』上演の真意/閉ざされた心への訴え」朝日新聞掲載)

これが上演企図だとするのであれば、新聞沙汰にもなった芝居の一部は、寺山らが“主役である地域住民の平凡な日常現実”の中に持ち込んだ「異物」によって住民たちが反応し、非日常生活での「劇」を演じたことに他ならないと考えれば、この一点においては、まんまと成功したといわねばなるまい。

寺山修司マガジンより

地図に示される18のイベントのなかでも「ヒューマンボクシング」と「書簡演劇」 はとんでもない試みである。

最後は警察の介入により中断されたというこの作品、作品自体の良し悪しよりも、こういった市街劇という企画そのもので演劇と社会へ一石を投じようとした寺山修司の意思を、現代で引き継ぎたいものだと思う。
それには、パフォーマーとプロデューサーのがっちりしたタッグが必要不可欠であろう。
しかし、僕はこういう事をやりたいと思っている。

30時間市街劇『ノック』解説
http://www.t-time.jp/Terayama/eizo/eizo_01.html