”Nostalgia Film” 「ポケットにレーズンがいっぱい」 #2

#2
家の壁にかかった古い時計がボンボンと時を打った。もう10時だった。
わたしはどこに出かけたらいいのか定まらないまま、とりあえず身支度を始めた。どこにも行かない、という選択肢を選ぶことはできない。(そんなことをしたらお母さんが心配してしまうもの)


考えがまとまらないながらも、私は水筒にお茶を詰め、肩掛けカバンに放り込み、靴をはいた。
そして鍵をダイニングのテーブルに置きっぱなしだったことを思いだし、爪先立ちで慌てて取りに戻った。


いまだに通い慣れない朝の通学路で、野球のユニフォームを着てバットを持った男の子たちとすれ違う。
わたしもスポーツでもしてればよかったかなという考えがふと頭をよぎったが、自分が何かのユニフォームを着て立っているところを想像すると、あまりに似合わなすぎてちょっと笑えてしまった。
急に笑ったわたしに驚いたのか、交差点の角の家の犬が吠え始めた。
わたしは足早にそこを通りすぎ、小学校に向かう坂道を登り始めた。
「でも、どうしよう・・・?」
元々さほど好きというわけでもない学校だったが、今日に限ってはそこに行くわけにもいかないのだった。


小学校の前を通りすぎ、坂をさらに登り続けると、そこは小高い丘になっており、林の木漏れ日がひんやりと涼しい影を落とす中に、申し訳程度の遊具とベンチが置いてある公園があった。
そこがわたしの、どうしようもないときの避難場所だった。


時計はちょうど10時半を指していた。


〈つづく〉