”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」 #2


ひとしきり西瓜を食べ尽くすと母親は、「茶の間に布団敷いといたからね」と言い放った。
母親に言わせれば「子供ってのは、昼寝をするもんなんだ」ということであり、自分の娘である私に至っては何歳になろうが子供だということらしかった。
「まったくこんなに暑いってのに寝られるわけないでしょうが」とブツブツ言いながらも、隣で瞼がとろんとして来たアズサの手を握って、私は茶の間に移動した。


アズサは右手に私の手、左手には例の魔法瓶をしっかりと握りしめたまま、スヤスヤと寝息を立てている。
「・・・寝れるもんなんだねぇ、子供ってのはさ」
ひとりごちた私の視界を白い影が横切った。
私は縁側に目をやりながら少し微笑んでその影に声をかけた。
「なんだ、あんた久しぶりじゃないのさ」
「にゃあ」
昔からうちの裏の路地に出入りしている野良猫のケンザブロウは、一声鳴き声をあげるとそのまま倦怠感あふれる動作で姿を消した。
たぶんうちの母親が勝手口にいつも置いている魚の様子を見に行ったのだろう。
それはうちの母親とケンザブロウとの約束のようなものになっていた。
おかしなもので母親は「あら、ケンザブロウさんの魚の骨がないわ」と言って、その日の晩御飯のメニューを魚にしたりするのだ。これでは誰のための食事なのかさっぱりわからない。
「しあわせものだぞ、キミは」
と私は近年増して丸々として来たケンザブロウの腹をつつきながら訴えたものだ。

〈続く〉