”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」 #3

3
「あんたのママさんはどこまでお出かけしてるんだろうねぇ・・・」
私は寝汗の浮いたアズサの額を手ぬぐいで拭いてやりながら、静かな寝顔にそっと呟きかけた。
外では蝉がうるさいくらいに輪唱をしている。夏も盛りの昼下がり。夕暮れ時にはまだ早い通りには、人の気配すらない。
「いまかき氷屋の屋台でも通りがかったりしたら、飛んでいって二人分買うのにな、絶対」と、私は首筋につたう汗をぬぐいながら思った。「早く来い、かき氷屋め」


私がそんなことを考えていると、食事を終えたのかケンザブロウが縁側に面した廊下を通りがかった。
満腹そうな顔をしたケンザブロウは私の方を見ると、一声鳴いて眠そうにあくびをした。
「・・・猫さん?」
ふと傍らを振り返ると、眠っていたアズサが薄目を開けている。
「あぁ、起きちゃったのか。・・・こら、ケンザブロウ、あんたはここで寝るんじゃないよ」
茶の間の畳の上でべったりと床に伏していたケンザブロウに、私はやんわりと警告した。
いつだったか、雨の日に外で泥まみれになったケンザブロウが寝転んだせいで汚れた畳を、「ほらっ、早くケンザブロウさんの後片付けをしな!」と母親に怒鳴られて掃除させられたことを、私は忘れていない。


「猫さん、お名前は?」
「ケンザブロウって言うんだよ。この辺りでも名物っていうか・・・」
そこまで言ったとき、私はケンザブロウの様子が何かおかしいのに気がついた。

〈続く〉