”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」#5

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「アズサはさ。この中がどうなってるか、知らないの?」
私の問いかけに、アズサは涙をうっすらとにじませて首を縦に振った。泣くんじゃない。私が何とかしてやるから。


「ちょっと、貸して」
私は細心の注意(と言ってもいったい何に気をつけたものだか皆目検討はつかなかったが)を払いながら、受け取った魔法瓶を眺め回した。
「振ってみたら、出てきたりして・・・」
「だ、だめっ!」
アズサが慌てて私から引ったくる。


と、私はアズサの手の中にある状態で、ふと瓶の口の部分を覗き込んだ。
「あれっ・・・なに、これ・・・」
暗闇が続いているものとばかり思っていた瓶の奥に、何か明かりが見える。じっと目を凝らすとじわじわと、緑の揺れる草原が遠くに見えてくる。
「・・・アズサ。あんた、これ、知ってたんだね・・・?」
アズサは私と目が合うと、恐る恐る首を縦に振る。
「・・・怒った?」
「・・・なにも怒りゃしないよ。あんた、さっきこれを私に教えてくれようとしたんだね」


「・・・いつも、覗いて見てたの。一人になったとき。雨が降ったり、夜になったりしても、この中はいつもお天気で、あったかそうで・・・」
アズサは訥々とした調子で話しだした。
「不思議と誰の姿も見ることはなかった。わたしの場所。わたしだけの場所。わたしだけのマホウノビン・・・」
母親が出かけて暗い家の中で、ひとりぼっちでこの子は瓶の中を見つめていたというのか。
私は話を聞きながら、たまらなくこの少女を抱きしめてやりたくなった。だから、そうした。


「ヨウコさん・・・」
私は顔を近づけて言った。
「行こう」

〈続く〉