”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」 #7

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「いない・・・ねぇ」
私は池の縁に寝転がって大きく伸びをしながら、傍らのアズサに話しかけた。
「うん」
膝を抱えて水面を見つめながら、アズサは返事を返した。


私たちは草むらを掻き分け掻き分け、長い時間辺りを探し回ったのだが、残念ながらケンザブロウはおろか、生き物の姿ひとつ見つけ出すことはできなかった。
そんなに遠くに行っているはずはないというのが私とアズサの共通の意見だったが、その意見はもはや撤回した方がいいのかも知れないなと、二人とも思い始めていた。


この池と周りの草むらを越えた先に何があるのかはわからなかったが、ガサガサという音と共に、にゃあとケンザブロウが顔を出すのではないかと思うと、にわかには立ち去りがたかった。


「でも、それももう限界」
私はキッパリと言い放つと、パンパンと膝を払って立ち上がった。
「この先を探そう」
「どっちへいく・・・?」
アズサが不安げな顔で見上げてきた。
確かに、どっちを向いても草むらが続いていてまるで見通しがきかない。


「こっちよ」
私は奇妙なほどにオレンジ色に輝く太陽の方角を指し示した。あいにくその太陽はやや傾き始めていた。時間はもうあまりないのだ。

〈続く〉