”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」 #8

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ただひたすら太陽の方角へと歩き続けるうちに、辺りはだんだんと薄暗くなっていった。微妙な上り坂になっているらしく、進んでも進んでも目の前は見通せないままだった。
私たちはすっかり無言になってしまい、辺りにはただ、私とアズサの少し荒い息づかいだけが木霊していた。


「ほんとに・・・いるのかね、アイツ」
「・・・さぁ」
「まったく・・・手間かけさせやがってさ」
「・・・そんなこと」
息を継ぎながら言葉少なげにやり取りを重ねつつ、私たちの頭の中には不安がありありと募り出していた。
そのときだ。


「ヨウコさん、前!」
アズサのめずらしく鋭い声に向き直った私の目に、崖っぷちの行き止まりと、そこから見渡せるすっかりひらけた絶景が飛び込んできた。
断崖絶壁の縁まで駆け寄って、私たちはその光景を食い入るように眺める。
「街だ・・・」


夕暮れ時の陽光に照らされてきらきらと茜色にかがやく煉瓦づくりの家々。煙突からは煙が立ち上ぼり、家では夕飯の支度の最中なのだろうか。
こんな地の果てのような場所にも、確かに人のいるという証しがあるのだった。


「にゃあ」
ふと気づくと、足元に見慣れた姿が顔を見せた。
「なんだ。あんたこんなところにいたのかい」
私は並んで同じように街を見つめる白い毛並みをした背中に声をかけた。

〈続く〉