”Nostalgia Film” 「夏と夜空とマホウノビン」 #10

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私はちょっとだけ帰り方を心配していたのだけど、そんな心配はまったく必要なかった。
アズサがかざしたマホウノビンの口を覗き込むと、懐かしいあったかい灯りがそこから溢れ出した。


二人と一匹はその灯りにぐんぐん吸い寄せられていった。
ふわふわと、まるで春先に芝生の上に寝転んでいるような気持ちに包まれ、辺りの景色も私の意識もぼんやりとしてきた。
はっと気づいたときに目に入ったのは、よりによって私んちの茶の間の、汚い染みの入った土壁だった。
あーあ、どうせなら最後まできれいなまま終わりゃあよかったのに。
おまけに背後から、これだ。


「さぁあんたたち!もう昼寝は十分だろ。洗濯物取り込むの手伝いなっ」
まったく、うちの母親はいつだってこの調子なのだ。
私たちは一仕事してきたんだよ、勘弁してよ
と思いつつ、アズサの方を向くと、くすっと笑って縁側に飛び出していった。
やれやれ、子供ってのは元気だ。


さて、もうすぐこの夏の日の変な話も終わるのだけど、最後にアズサが夏休みの日記に書いた内容をここに記しておこうと思う。(まったく、あの子ったら!)
それじゃあ、聞いてくれてありがと。またね。ばいばい!


8月29日(水)はれ
きょうわたしは、ヨウコさんとねこさんといっしょに、とってもへんなところにいきました。
ふしぎで、なつかしくて、あったかいところでした。
「みんなにはだまっとこうよ」とヨウコさんはわらっていいました。
だから、このはなしはわたしとヨウコさんとねこさんだけのナイショにしておきます。

2年3組 キノシタアズサ


〈おしまい〉