”Nostalgia Film” 「ポケットにレーズンがいっぱい」 #4

#4
もやがかかったような闇の中。
ジリリリリリリ・・・と、どこかで目覚ましが鳴っていた。
もうちょっと、もうちょっとだけ、とわたしは音を追い払うように手を振った。
(どうして日曜日だっていうのに、わたしだけ朝早く起きないといけないの? みんなもっとのんびり遅くまで寝てるじゃない・・・)
「・・・起きなさい」
もやの中から声が聞こえていた。
「お母さん、いつもはわたしが起こさないと起きないくせになんで今日は早起きなのよう」
「・・・お嬢さん。起きなさい」
違う。これはお母さんじゃない!
わたしは冷水を浴びたように飛び起きた。
あまりに勢いがよすぎたせいで、その声の主は驚いた顔で私を見つめていた。


わたしはドキドキと落ち着かないままの胸を抑えながら、その主の様子を窺った。いくつなのか全く伺い知れないほど年輪を重ねたシワと、真っ白な長い髭を伸ばした老人だった。見たの事のない人ではあったが、不思議と怖い感じはしなかった。
老人は伸ばした手の行き場を失ったかのように、所在無げな様子で、顎髭に手をやった。


「あの・・・ど、どなた・・・です、か?」
わたしは恐る恐る訪ねた。老人は笑顔を浮かべた。
「ほっほ。心配せんでもいいよ、お嬢さん。この辺りに住んでるものじゃよ」
老人はそう言うとさらに顎髭をさわり続けた。
「あんたこそ、この辺りじゃ見ない顔だが・・・」
確かに、わたしはこの辺りではまだ異邦人の立場だった。市民権を得るにはまだしばらくは時間がかかるだろう。


わたしが最近この辺りに越してきたことを伝えると、老人は顔をさらにくしゃくしゃにして微笑んだ。
「そうかそうか。・・・しかしよくまぁこんなところまで一人で来たもんだ」
どれ、と老人は足元に置いてあったランプを手に取った。
ランプ?
慌てて辺りを見回すと、10メートル先も見通せないほど、辺りはもやに包まれていた。
「おじいさん?」
わたしは老人の方を振り返った。


〈つづく〉