”Nostalgia Film” 「ポケットにレーズンがいっぱい」 #7

#7
「おお。これはいかん。もうこんな時間だ」
何杯目かの紅茶を飲み干し、お茶会もしばらく過ぎた頃におじいさんがつぶやいた。
部屋の柱時計は、ちょうど正午を指していた。
「うちの方が心配なさってはいかん。家まで送っていこう」
でも、わたしの家には帰っても誰もいない。わたしは少し背筋が冷え込んだ気がした。あそこは一人で過ごすにはちょっとばかり寒すぎるのだ。
「・・・もうしばらくここにいてはいけない?」
「ふむ・・・まぁ、そりゃかまわんが・・・」
おじいさんは少し悩んでいる様子だった。
「今日は何をするつもりだったの?」
「逍遙ですよ、レディ。彼は森の守り手なのでね」
思案顔をしたままのおじいさんに代わって、サー・グレナデンシロップが答えた。


「野山を巡り、木々や草や花たちが、あるがままの姿を保っているかを確認するのが、彼の役目なのです」
グレナデンシロップ卿はその仕事が自分の誇りでもあるかのように胸を張った。
「あら、それじゃあさっきもその途中で?」
「左様。普段は見かけぬ場所で、お嬢さんが眠り込んでいるのを見つけたので・・・その、気になってな」
おじいさんは少しはにかんだように微笑んだ。
グレナデンシロップ卿がグワッグワッと楽しそうに鳴き声を上げた。
「じゃあ続きをしに行かなきゃ」
「ふむ・・・」
わたしはおじいさんの目をまっすぐに見つめた。わたしはあの家には帰りたくない。
「・・・わたしも森へいきたい」
「ふむ・・・」


おじいさんは複雑な表情を浮かべたまま立ち上がって戸口に向かった。そしてわたしに背を向けたままで、さっき置いたままになっていたランプを手に取り、中身を確かめて油を足し始めた。
わたしは無言で立ち上がり戸口に向かうと、おじいさんが振り返るとともに外套を差し出した。
おじいさんは少し笑いながらそれを受け取り、代わりにわたしにランプを差し出した。
「・・・好きにしなさい」
「はい」

〈つづく〉