”Nostalgia Film” 「ポケットにレーズンがいっぱい」 #8

#8
「レディ、そう走るものではありませんぞ。どうぞ我が輩の側へ」
グレナデンシロップ卿がわたしをたしなめたとき、わたしは彼らから200メートルくらい先に駆け出していた。
外はすっかり霧が晴れ、暖かな陽光が辺りを照らしていた。
わたしは立ち止まり、側にある大きな樹にもたれかかった。
大きくクチバシを開けて息を切らせながら、グレナデンシロップ卿が駆け寄ってきた。
「(グワッグワッ)・・・レディ、その・・・そんなに、走っては・・・(グワッグワッ)」


大樹の側には小さな白い花が一輪咲いており、露に濡れて悲しげに首をもたげていた。
手を差しのべてしまえば、むしろぽっきりと折れてしまいそうなほど細い茎だった。
「どれ・・・」
いつの間にか追い付いていたおじいさんが、わたしの横にしゃがみこんでいた。
「かわいそう・・・」
「ふむ・・・」
わたしは横にいるおじいさんの顔を眺めた。その横顔は静かで目には深い優しさが浮かんでいた。


おじいさんはしばらく無言で花を眺めていたが、やがて花から目を離さずそっと呟いた。
「・・・ラジェンドラ、元気をお出し」
そう声をかけながら、手をさしのべ、いかにも重そうに花びらに乗っている雫をそっと払った。
すると、いまにも倒れそうに首をもたげていた花がゆっくりと頭を持ち上げていった。
「どうして・・・?」
「・・・聞こうと言うなら、注意深く耳を傾けねばな」


〈つづく〉