”Nostalgia Film” 「ポケットにレーズンがいっぱい」 #11


#11
気がつくとわたしは、公園のベンチに横たわっていた。
辺りはひんやりと肌寒く、夕暮れが近づいているようだった。
「・・・帰らなきゃ」
わたしは立ち上がって、家路についた。もしかしたらお母さん、先に帰ってるかもしれない。


「あら、アズサおかえり。あなためずらしく遅くまで遊んでたのね」
台所でスーツ姿のまま晩御飯を作りながら、お母さんが言った。
「今日はどこで誰と遊んでたの」と言われないかとドキドキしたが、そんなこともなかった。(元々この人はそんなことを聞いてくる人ではないのだ)
わたしは泥だらけの靴をあとで自分で洗おうと、見つからないようにこっそりと洗面所に持っていった。


自分の部屋に戻り、鞄を下ろすと重いものが机に当たる音がした。そうだ、たしかマホウノビンとやらをもらったんだった。
わたしは鞄から瓶を取り出した。どこに置いてきてしまったのか、出かけるときに持っていた水筒が見当たらなくなっていた。
まぁ、いいか。その代わりにこれをもらったようなものだと思おう。
ついでにポケットを探ると、レーズンの最後の一粒が転がり出てきた。
わたしはそれを口に含み、今日一日に起こったことを思い返していた。


「アズサ、ご飯食べてしまいなさい」
「はーい」
お母さんが呼んでるから、もう行かなきゃ。
なんだかんだ言って、わたしはあの人に心配をかけたくはないのだ。
(来週の日曜日には、また森にいこうかなぁ)
わたしはそんなことを考えながら、部屋の扉を後ろ手に閉めてダイニングに向かった。


これが、わたしが初めて、日曜日のことを楽しみに待つようになった日の話。


<おしまい>